No.73 ジャッカル vs トヨ (2004/12/08)
今後、人物編コラムの文章の加筆修正と並行し、時間があるときに様々な印象に残るバトルを考察していきたい。
記念すべき1回目は、『小賢しい』という形容詞がピッタリの野盗団のリーダーであるジャッカルと、バットの育ての親トヨとの対決である。何故この戦いから書き始めるのだ、と訝る方もいらっしゃるだろう。しかし、この対決は作中で他に例のない特徴を兼ね備えている。トヨが銃を撃ったのだ。「北斗の拳」全編中、銃が発射されたのはこのときだけのハズである。
しかも、トヨが使用した銃をよく観察してみると、生半可なものではないことが分かる。サイズや形から判断して、いわゆるアサルトライフルの類であろう。確証はないが、ドイツのH&K社のG3か、旧ソ連のAK47ではないだろうか。よく似ている。これらの銃は殺傷能力十分であると同時に、機構がシンプルなので比較的短期間の訓練で使えるようになる。トヨのような老婆が扱うには最適だ。実際、トヨはかなり離れた地点からバイクに乗って動いているジャッカルを狙撃し、弾丸はジャッカルの顔面を掠り、殺害には至らなかったものの傷を負わせている。なかなかの腕前である。おそらく有事に備えて密かに射撃訓練をしていたのであろう。
しかし、ジャッカルは逆上し、体中に多数装着したダイナマイトを盾にしながら、「撃つなら撃ってみろ。だがな、おまえもガキどももこなごなにくだけちるぞ」と脅迫。怯んだトヨから銃を奪い取り、ナイフで右胸を刺すことに成功。ジャッカル薄氷の逆転勝利であった。
トヨの敗因は、最後の最後で冷静さを失ったことにある。ジャッカルはダイナマイトを盾にしていたが、このとき2人の距離は極めて近く、しかも彼の顔面や頭部はガラ空きであった。遠距離の動く敵に当てられるトヨの腕前があれば、至近距離から脳を貫通して即死させることは決して不可能ではなかったはずだ。土壇場でその可能性に思い至らなかったことがトヨの失敗であり訓練不足とも言えよう。仮に射撃練習をしていたとしても、生きた人間を撃った経験はなかっただろう。この世界で生き延びたいなら、やはりいつでも人を殺せるほどの覚悟が必要である。