Love Love Love マシーン (Wow Wow Wow Wow)
Love Love Love ステーション (Yeah Yeah Yeah Yeah)
Love Love Love ファクトリー (Wow Wow Wow Wow)
Love! Love is so wonderful!
「モーニング娘。」(以下、「娘」と略記する)は、現在(2004年)の日本で最も広い世代に名の知られたアイドルグループであろう。しかし、ここ2,3年は出演番組は限られ、CDの売り上げは減少傾向が顕著である。今や、新曲シングルの売り上げは、1980年代に活躍した「おニャン子クラブ」(以下、「おニャン子」と略記する)の最晩年とほぼ同等になっている(※注1)。
売り上げ枚数や出演番組数だけで判断すると「娘」は既に解散していてもおかしくないのだが、その兆しは皆無で、依然として芸能メディアに大きくとりあげられる存在であり続けている。「おニャン子」の最晩年にはメンバーのソロ活動しか目立たなかった(と私は記憶している)のとは大違いである。
以上のような「娘」と「おニャン子」の違いを生み出したものは何か、私なりの考察を行ってみたい。キーワードは「LOVEマシーン」と「後藤真希」と「LOVEマシーン」である。
※注1 シングル売り上げ枚数に関する記述は、サイト「シングルチャート大辞典」の中のモーニング娘。のpageとおニャン子クラブのpageを参照した。
「LOVEマシーン」発売に先立つ1999年8月、後藤真希が「娘」に新加入した。当時、各メディアは一斉に後藤と「娘」に注目した。何しろ、11000人の中からただ一人だけ追加メンバーに選ばれたという事実と、後藤自身の持つ華とスター性はインパクトを持っていた。もちろん、後藤以前にも番組「ASAYAN」ではオーディションの様子を詳細に放映していたが、ワイドショーレベルで話題に上るようになったのは後藤以降だと記憶している。この後、プロデュース側も、意識的に新加入や離脱や臨時ユニット結成を頻繁に行い、世間にアピールする戦略を取るようになったと思われる。後藤の次の期に加入した辻や加護らも広い世代からの認知を得るに至った。また、中澤裕子や後藤、市井らの“卒業”も一定の話題性を得ることに成功した。
以上のような戦略によって、仮に「娘」の本業であるべき音楽面で不調であったとしても、ある程度は世間にアピールできる程のネームバリューを確保するに至ったと思われる。固定ファン(言い換えればヲタ?)にとっては、たとえば「5期メンは高橋以外はいまひとつだな」などと評論する楽しみが生まれるわけである。メンバー入れ替えが頻繁ではない「おニャン子」の場合にはこの種の楽しみ方は存在しなかった。
1999年9月9日、「娘」の最大のヒット曲「LOVEマシーン」が発売された。売り上げは150万枚を超え、当時は多くの人がカラオケで歌い、結果的に広範な世代の人々の記憶に残る楽曲となった。この曲を境に、「娘」は単なるアイドルグループの枠を超え、諸メディアから特別視されるグループへと変貌を遂げたことは間違いなかろう。
この曲の何が凄かったのだろうか。「おニャン子」には「LOVEマシーン」に比肩し得るヒット曲は存在しない。
発売後しばらくして、私が「LOVEマシーン」の凄さを痛感するに至ったちょっとした出来事があった。1999年、曲が世に出た当時の私は、「良くできた曲だな、これなら大ヒットも当然かな」という漠然とした印象を持っていた。何が良いのか、深く考えていなかったのだ。ところが、CX系の歌番組「ミュージックフェア」で、「娘」のプロデューサーであるつんく♂と西城秀樹の2人が「LOVEマシーン」をデュエットで歌っているのを聴き、非常に驚いた。とてもつまらない曲に聞こえたのである。これなら「娘」が歌う方が遥かに良いな、と思ったのだ。つんく♂にしろ西城にしろ、日本の男性ポップス歌手の中では歌が上手い方に属すると思う(少なくとも下手だと思う人は居ないだろう)。ましてやつんく♂は曲を作った本人である。それなのに、なぜ「娘」の歌のほうが良く聞こえたのだろうか?
少し考えて私は結論を得た。「LOVEマシーン」は若い女性が大人数で歌わないと魅力が発揮されないように作られているのだ。
「LOVEマシーン」のメロディは全体に単調であると思う。特に有名なサビの部分「♪日本の未来は(Wow Wow Wow Wow) 世界がうらやむ(Yeah Yeah Yeah Yeah) 恋をしようじゃないか♪」では、メロディの動きは少なく、凝った和声進行も使われていないと言ってよいだろう。それでも、不思議なことに「娘」の8人(当時)が歌うと、単純さゆえの迫力が滲み出てくるのだ。TV等で歌っているのを見ると、メロディに動きが少ない分「娘」のメンバーの動きが映えるのだ。これは理屈では説明しきれない。
そもそも、シャ乱Q時代から、つんく♂の作るヒット曲は大別して2種に分かれていたと思う。1種類目は動きが大きくキャッチーなメロディを持つ曲。シャ乱Qの最大ヒット曲「ズルい女」や「娘」初期の佳曲「サマーナイトタウン」が相当する。一般に、この種の曲は大衆受けしやすいので、知名度の無いアーティストが世間にアピールするのに適している。もう1種、単純なメロディの反復で聴かせようとする曲もつんく♂は時々作る。この種の曲は好みが分かれるところであろう。シャ乱Qの「いいわけ」は、私にはお経にしか聞こえない(やや極端な言い方だが)。このように、扱い次第では地味な楽曲にもなりかねない「LOVEマシーン」を後藤真希加入後の最初のシングルという重要な転機でぶつけてきたつんく♂の企画力には感服する。逆に、約2か月後に結成された市井紗耶香、後藤真希、保田圭の少人数ユニット「プッチモ二」のデビュー曲には、「LOVEマシーン」とは逆に活発なメロディを持つ佳曲「ちょこっとLOVE」を持ってくるに至っては、脱帽ものである。
加えて、「LOVEマシーン」が多くの女性にカラオケで歌われたこと、更に曲の単純さゆえに女子小学生層の支持も得るに至ったことは「娘」にとって幸いだった。「おニャン子」の支持層が概ね30代以下の男性だったのとは大違い。「おニャン子」のデビュー曲「セーラー服を脱がさないで」はキャッチーで活発なメロディを持つ佳曲だが、これを積極的に歌おうと思う女性は(歌詞の内容を考えても)滅多にいないだろう。
年少層や女性層の支持の獲得→多様な一般メディアからの注目→更に広い世代への定着、という好循環を1999〜2000年頃の「娘」は実現させていたのだ。当時の“貯蓄”は現在でも有効であり、いまだに「モーニング娘。」は日本のアイドルグループの代表格であり続けている。
冒頭にも書いたが、最近の「モーニング娘。」の人気は低落傾向にある。熱心に注目しているのは固定ファン(ヲタ)だけではないか、という説もある。そうかも知れないが、「娘」はまだ一般メディアから見捨てられてはいない筈だ。「LOVEマシーン」級の衝撃さえあれば、再び昔日の人気を取り戻すのは困難ではあるまい。
私見では、人気低落の最大の原因はつんく♂の曲の質が低下もしくはマンネリ化していることにあるのではないかと思う。実際、最近は、ヲタではない私でも思わず口ずさみたくなる魅力を持つ曲が見当たらない。彼自身の能力に限界があるなら、ソングライティングは他の人に任せても良いのではないか。ヲタ以外の層を引き寄せるには、良質の音楽が不可欠であることを強調して、本稿を締めることにしよう。